大阪地検特捜部による郵便不正事件と証拠改ざん・隠ぺい事件をきっかけに、捜査・公判のあり方を検討している法制審議会(法相の諮問機関)の「新時代の刑事司法制度特別部会」(本田勝彦部会長=日本たばこ産業顧問)が試案を公表しました。試案の可視化の範囲が、検察と警察がすでに試行している範囲より限定されることなどから、弁護士・有識者委員らは「捜査当局の焼け太りだ」などと強く反発している。最終案の取りまとめは難航しそう。
試案は、可視化の導入について、
① 部例外を除く裁判員裁判対象事件で原則全過程を可視化する
②可視化の対象範囲は取調官の一定の裁量に委ねる――の2案を示した。しかし、現在すでに、裁判員裁判対象事件▽知的障害者による事件▽地検特捜部の独自事件については可視化を試行しており、試案はいずれをとっても試行から後退することになるでしょう。
部会のメンバーであり、郵便不正事件で無罪が確定した村木厚子・厚生労働省社会・援護局長は「裁判員裁判対象事件は全体の3%に過ぎない。試案を採用すると、私の事件も誤認逮捕があったパソコン遠隔操作事件も対象にならない」と試案に反対の立場。
一方、試案には通信傍受の拡大も盛り込まれた。現在は、薬物犯罪、銃器犯罪、組織的犯罪、集団密航に認められているが、これを社会問題化している振り込め詐欺や組織窃盗に拡大を検討するというものだ。これについても弁護士などからは、「通信傍受は捜査当局にとってはのどから手が出るのだろうが、安易な導入は人権に触れる可能性がある。
そもそも今回、通信傍受の拡大が議論されたのは、取り調べの可視化の導入という前提があったからだ。可視化が試行より後退する試案に通信傍受を盛り込むのは矛盾している」と批判する。
今後はこの試案をベースに、細部の議論を重ねることになるが、委員の間の溝は深く、容易に埋まりそうにない。
司法ジャーナリストは「何故、可視化が必要かという原点に立ち戻る必要がある。試行から範囲を狭めるならば、試行でどのような問題があったのかなど、具体的な説明が必要だ。通信傍受については、抽象的に『人権にかかわる』では説得力がない。
試案に賛成、反対いずれであっても一般人が納得できるような根拠を示さないと議論が空中戦に終わってしまう」と指摘する。刑事司法制度は社会の大きな原則だけに丁寧な議論が求められているのではないでしょうか。