憲法改正のために必要な国民投票の投票年齢を「18歳以上」に引き下げる国民投票法改正案が衆院を通過した。改正案に反対なのは共産、社民両党だけで、今国会での法案成立は確実視されている。国民投票法改正は改憲のためのステップの一つだが、安倍晋三首相は解釈改憲による「実質的な憲法改正」に踏み出しており、実際に国民投票が行われるかは不透明な状況だ。一方で、同時に問われていた選挙年齢、成人年齢の引き下げ問題は先送りされている。
改正案のポイントは、①国民投票の投票年齢を施行4年後に「20歳以上」から「18歳以上」へ引き下げる②一般公務員による改憲の賛否を働きかける「勧誘運動」を認めるが、警察官、裁判官、検察官などの運動は禁止③公務員の組織的な勧誘運動の規制を検討し、法整備を進める④改憲以外の国民投票の必要性を検討し、法整備を進める――だ。
憲法改正に必要な国民投票については、長く実施法がなく、2007年の第1次安倍内閣で国民投票法が成立した。投票年齢は選挙年齢、成人年齢が「18歳以上」になるまでは「20歳以上」にしていた。付則に①公職選挙法の選挙年齢、成人年齢の18歳以上への引き下げ②公務員による政治的行為を可能にするための法整備③国民投票法の対象拡大について検討――が盛り込まれ、国会として結論を出すよう迫られていた。
改正案はその宿題に対する回答といえるが、改憲のための国民投票の投票年齢引き下げを明確にしたが、選挙年齢、成人年齢については「沈黙」した。
自民党内には選挙制度年齢の引き下げには「18歳はまだ若者。国政の判断は無理」などと否定的な意見も多い。さらに成人年齢の引き下げとなると、18歳でローンが組めるようになり、競馬などギャンブルも可能になる。関連法規の改正も膨大になることから、政府内部にも消極的な向きが多いのが現実だ。
政治ジャーナリストは「自民党内にも『解釈改憲が現実的になったため、国民投票法改正の必要性は薄れている』という解説が多い。しかし、改正案に賛成の議員は衆参両院でとも3分の2を超えていることに注目すべきだ。憲法改正の発議ができる条件をクリアしているからだ。船田元氏(自民党憲法改正推進本部長)が『この枠組みで憲法改正原案を作りたい』と述べているように、憲法改正の第一歩とする動きもある」と指摘する。また別のジャーナリストは「選挙年齢、成人年齢問題を先送りにしたのは、政治の怠慢としかいいようがない。迫られている選挙制度改正も有権者の枠組みをどうするかは避けられないはずだが、あえて目をつむっているとしか思えない」と批判している。