社会保障審議会の医療保険部会で「療養の範囲の適正化の確保について」という検討が始まった。背景には、高齢化に伴い増加する医療費を誰がどう負担するかという問題がある。この中で大きなテーマは、
①病院に紹介状なしで受診する患者に新たな負担を求めるかどうか
②入院患者の食費の自己負担を引き上げるかどうかだ。
厚生労働省は、早ければ2016年1月からの導入を目指している。
大病院の受診については、以前から問題になっていた。かぜや軽い腹痛であって「念のために」と開業医(かかりつけ医)に診てもらわず、大病院に行くケースが多いからだ。弊害も目立っている。医師や看護師が軽症患者の対応に追われ、本来の役割である重症患者や救急患者への対応が十分できないばかりか、多忙になりすぎることなどが報告されている。
このため、現行制度では200床以上の大病院(2657施設)は、紹介状がない患者からは特別料金を徴収できる。しかし、義務化されていないので実際に徴収しているのは1204施設で、特別料金の額も200~8400円(平均2085円)とばらばらだ。
厚労省は医療保険部会に、初診料(2820円)と再診時の再診料(720円)を全額患者負担にする案を示している。これ以外にも定額料金を上乗せする案を示しているが、患者負担が軽い初診・再診料の全額負担案が有力だ。
この患者負担のアップにより、厚労省は、紹介状のない患者が安易に大病院に向かわず、まず、まずかかりつけ医に診てもらい、重症ならば大病院を紹介する「医療機関の役割分担」が進むとみている。
しかし、問題も多い。まず「大病院」の範囲をどうするか、さらに救急患者の扱いはどうするか、という問題がある。さらに、医療機関同士の連携が十分でないため、かかりつけ医と大病院が同じ検査を行うことも考えられる。
一方、入院患者の食費は現行の260円を200円増額し、460円にする方向で検討している。療養病床に入院している慢性病患者の負担と同額にし、バランスを取るのが狙いだ。
医療ジャーナリストは「今回の見直しはやむを得ない面もあるが、小手先の改革という印象だ。『医療機関の役割分担』をいうならば、診療報酬で対応しなくては成果はでない。医療機関の間で検査結果を共有しているケースは少なく、それを促す施策も十分ではない。患者負担を増すだけの結果にならないよう注視したい」と話している。