安倍晋三首相は3月15日に環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉に参加することを表明した。民主党政権時代からの懸案だが、自民党内には農業への影響を懸念し、反対する向きも少なくない。安倍首相はこれまでも交渉参加の意向を示していたが、正式表明は「今夏の参院選後になる」(自民党幹部)との見方が強かっただけに、安倍首相の参加への強い意向を印象づけるものになった。新聞各紙は16日朝刊社説で一斉にこの問題を取り扱ったが、参加に反対した社説はなかった。
参加表明を積極的に支持したのは、読売、産経、日経の3紙。読売は「菅政権で検討を開始して以来、約3年間、意見集約が難航した。首相の政治決断を評価したい」と論じました。産経も「大きな一歩を踏み出したことを歓迎する」「一気に党内をまとめた首相の決断を評価したい」と支持を表明した。日経も「国内にくすぶる保護主義の声を抑えて、日本経済の開放と改革にカジを切った首相の決断を評価したい」と手放しで高く評価した。
3紙に共通しているのは、TPPが対中国戦略上、日米同盟の強化を目指すために重要である、という指摘だ。「台頭する中国に国際ルールの順守を求めるには、緊密な日米連携が不可欠である」(読売)、「中国をにらんだ戦略的な意味に、目を向けるべきだ」(産経)、「TPPへの取り組みで、安倍政権が念頭に置くべき国際情勢は、中国の台頭である」(日経)という具合だ。経済的側面を越えた意味づけを強調しているといえる。
これに対し、朝日、毎日、東京の3紙は、交渉参加表明に異議を唱えてはいないが、安倍首相の決断を直接「評価」しなかった。
朝日は「日本はTPP交渉をまとめあげる責任を負う」「TPPを着実に進めるとともに、国内産業の足腰を強くする規制・制度改革を連動させて、日本経済を再生させなければならない」とTPP交渉参加を暗に肯定しながら、安倍首相に注文を並べるという、歯切れの悪い印象だった。毎日も社説全体からはTPP参加支持のニュアンスをにじませながら、「TPP交渉参加については、国民の間に根強い慎重論があることも否定できない」「国民の理解を得る努力も忘れてはならない」という一般論で締めくくった。東京は各紙の中では一番TPP交渉参加に消極的な印象だった。前文で、「日本はコメを含む『聖域なき関税撤廃』という前提をどう突き崩すのか。国民との約束に違(たが)わぬ交渉を貫くよう求める」と主張し、最後は、自民党の昨年の衆院選での公約「関税撤廃が前提なら交渉には参加しない」を持ち出し、「首相のいう足元の約束がぐらつけば、日本が不利益を被ることになる」とくぎを刺した。TPP問題を通じて、各紙の政権との距離感が図らずも示されたということだろう。