構造的な赤字に悩む国民健康保険制度に改革のメスが入ろうとしている。社会保障制度改革国民会議(会長、清家篤慶応義塾長)が、国保の運営主体を現在の市町村から都道府県に移管することを打ち出したからだ。夏にまとめられる報告書に盛り込まれる見通しだ。
国民会議はこれまでの論点を整理し、「必要な時に、適切な医療を適切な場所で、最少の費用で受ける」体制作りを提唱した。国保改革はそのための主要な柱の一つに挙げられている。
国保の財政難は古くて新しい問題だった。建前では、大企業のサラリーマンは組合健保、中小企業の従業員は協会けんぽ、公務員は共済組合、農家や自営業者は国保――が医療保険の基本構造だが、実態は、高齢化が進み、農家の減少などの結果、国保の加入者の中心は、企業を退職した人やフリーターら所得の低い層が中心になり、市町村が一般会計から赤字を補てんするのが当たり前の状態になっていた。
国保の危機的状況は、各保険制度のデータから見ても明らかだ。加入者の平均年齢は国保49.7歳に対し、組合健保34.0歳、共済組合33.4歳、協会けんぽ36.3歳。加入者一人当たりの平均所得は国保84万円、組合健保197万円、共済組合229万円、協会けんぽ137万円――という具合だ。医療費がかかる64~75歳の加入割合も、国保31.3%、組合健保2.6%、共済組合1.6%、協会けんぽ4.8%。「抜本的な医療保険改革を怠ったつけが国保に象徴的に現れている。改革は遅すぎるくらいだ」(社会保障ジャーナリスト)という状態なのだ。
運営主体の広域化は、専門家の間では以前から有力な案だった。「保険制度である以上、加入対象が大きいほど安定度が増す」(ジャーナリスト)からだが、実現しなかったのは、「健康対策などに意欲的な市町村と、そうでないところの格差が大きく、小回りが利かなくなる心配がある」(厚生労働省関係者)からだった。
国民会議の中では、運営主体の移管に合わせて、都道府県がそれぞれの実情に合った医療提供計画を策定することなども提起されている。
問題はそれでも残る脆弱な財政体質だ。関係者の間では「赤字部分は国が補てんするしかない」という声が強いが、どう捻出するかは難問だ。一部では、比較的財政に余裕がある組合健保に後期高齢者医療制度への拠出を増やしてもらい、協会けんぽの負担を減らす。その分、国が協会けんぽへの補助を減らし、国保に回すという案が取りざたされている。しかし、これには負担増になる組合健保が真っ向から反対している。改革の険しい道はまだまだ続きそうだ。