スウェーデンのストックホルムで行われた日本と北朝鮮の外務省局長級会議で、北朝鮮が日本人拉致被害者の「包括的かつ全面的」な再調査実施を約束、日本は調査開始時点で対北朝鮮制裁の一部を解除することで合意した。北朝鮮の核実験などで冷え込んでいた両国の関係改善に向け大きく動き出したことになる。しかし、不透明な部分も多く、一気に関係改善の道が開けるかはっきりしないのが現状だ。
合意文書では、日本側は①日朝平壌宣言にのっとり国交正常化を実現する意思を改めて表明②調査開始時点で人的往来の規制、北朝鮮籍船舶の日本への入国禁止を解除③適切な時期に人道支援を検討――などを認めた。北朝鮮側は①すべての日本人に関する調査を包括的、全面的に実施②全機関を対象にした調査権限を持つ特別調査委を設置③調査状況を随時日本側に通報④生存者が確認されれば帰国させる方向で協議――などを約束した。
これだけをみれば「大きな前進」(政府関係者)なのは間違いないが、問題は残っている。まず、合意文書がミサイル・核実験問題に触れていないことだ。米国は「核実験問題を棚上げにして日朝間が進展することには警戒感を持っている」(外交ジャーナリスト)とみられ、今後は米国の出方も焦点になる。また「拉致被害者」の範囲も不明確だ。北朝鮮による拉致被害の疑いが排除できない「特定失踪者」はあいまいだ。一部には「800人以上」という説もあるが、北朝鮮がすべてを調査対象にするとは思えない。どこまでを対象にするかは難関だ。さらに、今回の局長級会議で意見が対立したといわれる朝鮮総連中央本部ビルの競売問題も合意文書は触れていない。日本は、三権分立の原則から「政府が関与することはありえない」(政府関係者)との立場だが、北朝鮮は認めていない。「『本部ビルに寄せる在日朝鮮人の心情に配慮』という名目で、競売で落札した業者から政府が借り、総連に貸し出すというトリッキーな策もささやかれている」(ジャーナリスト)という。この問題の処理も一筋縄ではなさそうだ。
今回の局長級協議は異例なことが多かった。局長級会議は中国で行われることが多かったが、初めて北欧での開催になった。「当事者に入る雑音を少なくする狙いがあったのは確実。北朝鮮にとってストックホルムは国際外交の拠点の一つで、中国当局の影響なくバックアップ活動ができたのではないか」と解説する。さらに、合意文書に局長は署名をせず、本国に持ち帰ったこともあまり例がない。
謎の多い局長級会議だっただけに、後になって驚くような事実が明らかになるかもしれない。日朝交渉がどのように展開するか、当分目を離せそうにない。