飲料最大手のサントリーホールディングス(HD)の新社長に、コンビニ大手、ローソンの新浪剛史会長が就任することが決まった。正式就任は今年秋だが、この人事は各方面にビッグニュースとして伝わった。世界的な飲料・食品メーカーである同社の今後の行方も大きく左右することになりそうだ。
今回の人事について、経済ジャーナリストは「二重の意味で驚きだった」という。一つは、サントリーは1899年の創業以来、4代にわたって創業家の人物が社長を務めており、外部からの登用は初めてだったことだ。もう一つは、ローソンというまだ上昇途上の企業からの「引き抜き」だったことだ。
サントリーHDは、今も株式の9割を創業家が保有している「同族企業」であり、非上場を貫いている。創業家の意向を抜きにした経営は考えられない。経済ジャーナリストは「一族に適任者がいないというならば『外様』の起用は考えられるが、サントリーの場合はあてはまらない」という。
社内では鳥井信一郎・前社長の子である鳥井信宏・サントリー食品インターナショナル社長がHD社長になるとの見方が強かった。鳥井氏が48歳と若いこともあって、新浪氏起用は「ワンポイントリリーフ」という見方が根強いのはそのためだ。しかし、このジャーナリストはこの見方を否定する。それは、サントリーが世界展開を本格化し「国内企業から国際企業に脱皮しようとしている」からだ。サントリーは、バーボンウイスキー「ジムビーム」で知られる米ビーム社を買収するなどしており、今後もこの拡大路線を続ける意向だ。新浪氏には海外人脈もあり、ローソンのアジア進出も手掛けている。「まだまだローソンでやるべき仕事のあった新浪氏を引き抜いたのは、後継者が育つまでの『時間稼ぎ』ではない。世界的な企業になるための体制づくりと見た方がいい」というわけだ。
新浪氏にバトンタッチする佐治忠治社長は「新しい風を吹き込んでもらいたい」と新浪氏に期待をかける。「やってみなはれ」の企業風土で知られるサントリーとはいえ、内部を知る財界関係者は「同族会社独特の空気があるのも事実。『外様』にとってはやりにくいと感じることもあるだろう」という。
佐治現社長は「もう一つぐらいM&A(合併・買収)をやらなきゃいけないかもしれない」という。国際拡大路線で真価を問われる形の新浪氏だが、同時に問われるのは、サントリーが「同族会社」の殻を破り、国際企業にふさわしい存在になれるかということかもしれない。